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五千万円目の束を数え終わった。床でそろえて輪ゴムで止めた。巻きすぎると束が変形する。伸びるだけに緩んで端が乱れてしまう。あまりよくない。
「束を作るの輪ゴムより、帯封の方がいいと思うんですよね。今度できるようにテープを用意しておきます」
「帯封って、あれか? 新札の束巻いてあるやつ?」
頷くと「あれ、個人でもできんの?」と目を見開いた。
「嬉しいわあ、せやけど、帯したら数えられへんやん」
そんなに頻繁に確認するんだろうか。
「遥が黙々とお金数える姿をいっつもみたいやん」
「お金くらい、いつでも数えますけど……」
「しばらく、予定がつまっとって、土日の昼間は無理やしな……」
そう言われると、残念になる。
「金曜の夜、少し遅めは無理か?」
中島君と砂丘に向かう日だ。
「その日は予定が……」
つい、キャンセルできないかなと思ってしまう。
「なんや、しばらく無理そうやなあ。毎晩みたいくらいやのに」
沢村さんに顔を覗き込まれる。
こんなことをされると私は冷静ではいられない。信用しているかと訊かれればあきらかに『NO』だ。
沢村さんは何を考えているのかよくわからない。
だけど、信用できなくても、心ひかれてしまっている。
中島君とでかけると言ったら、沢村さんはどんな顔をするんだろう。
「金曜の夜から、中島君と鳥取砂丘へ行くことになってるんですけど……断りましょうか?」
「そんなん断ったらあかんて。ええなあ、俺も行きたいなあ、鳥取砂丘」
予想はしていた。妬いてはくれない。
「泊まりやなんてやるやん」
泊まりではないと訂正する。
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