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「裏切りって、どこからですか」
沢村さんは、首をかしげた。斜め上に視線をむけて考えているようだ。
「そうやなあ。まずは、俺の本性を誰にも言わないこと。京都で知ってるんは遥だけやしな」
私だって、沢村さんの本性なんか知りたくなかった。知らずにいれば、思い浮かべるだけで幸せになれた。
「後は、その場にならんとわからへんな。ドタキャン食らったくらいで裏切られたとは思わへんし、中島海渡君と付き合ったってかまへんし、せやけど、婚カツはあかんかな。一緒に暮らす相手としては、俺を、最優先に、前向き検討してもらわんと。出した結論があかんかっても、裏切りとは言わへんけどな」
沢村さんが、本気でそう思っているのだとしたら、一緒に暮らす条件に結婚が必須である以上『結婚前提のお付き合い』を始めるべきだと思う。それなのに、中島君と付き合ってもかまわないなんて矛盾している。
「一緒に暮らすのなんて検討しようがありません」
「なんでやねん」
つっこまれても困る。常識で考えればわかるはずのことを、説明するのは難しい。
「遥は、一緒に暮らす相手に、何を重要視しとるんや?」
そんなことは考えたことはない。わからないと伝える。
「それも考えんと、結婚相手を探しとるなんて、理解に苦しむな」
理解に苦しんでいるのは私の方だ。
「誰から聞いたか知りませんが。結婚相手はまだ、探してません。手遅れにならないうちに探さなきゃいけないと思い始めただけです」
沢村さんが、大きな目を見開いた。
「そうなんやあ……ふーん……それにしたって、俺でええやんか。探す手間がはぶけるやん」
「そんな簡単に決められることじゃありません」
沢村さんは頷いた。
「わかるで、あれやろ、トンコツは好きやけど、塩も醤油も捨てがたいし、麺にもいろいろあるから、食べてから決めたい」
ラーメンに例えないで欲しい。
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