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アインシュタイン
放課後、学校からの帰り道。
「アインシュタインがさ。6歳の少年に理解させることができなければ、物事を本当に理解したとは言えないって言ってたけどさ。そんなの無理だと思わないか?」
不満を口にする先輩の横に引っ付いて、私は歩く。
「だってさ。俺、今日の積分の授業、全然分かんなかったんだぜ。俺17歳なのに。先生は積分をこれっぽっちも理解できてないってこと?そんなわけないよな。多分、アインシュタインに教わっても俺は分からなかったと思うんだよなぁ。あーあ、ほんとぜんっぜん理解できなかったわー。」
珍しく、先輩は今日、授業中に居眠りせずにいたらしい。
「数学ってすげぇ正しいことを言ってるんだろうけど、分かんないよな。理屈がどんなに通っていても理解できないことってあるんだよ。世界が平和にならないわけだわー。」
晩秋。チャイムの音が、まだ私の耳の奥で響いている。
「なあ、そう思わないか?」
私は何も言わず、先輩の手を握った。
傾いた太陽の、心地よい紅色の夕日が、私たちの影を地平まで伸ばした。
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