山田詠美「僕は勉強ができない」

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山田詠美「僕は勉強ができない」

誰だっけ?クラスの女の子が「帰って動物に餌あげる」っていうのを了解して儀式にしていたのに、ガキが知らずに暴いてしまうの。カズオ・イシグロ?その後いいんだけどね。あ、山田詠美だ。  赤間ひろ子は、いつも給食が終わる頃に、立ち上がって、こう言った。 「パン残した人は、受け付けまーす。あたしんちのお庭に来る鳥さんたちのに、ご協力お願いしまーす」  皆、給食の食器を戻す前に、ひろ子の席に来て、残したパンを置いて行くのだった。あっと言う間に、ひろ子の机の上は、パンの山になった。秀美は、それを横目で見ながら、鳥のにするくらいなら、自分で食った方がましだと思っていた。第一、他人より食欲の旺盛な彼は、給食のパン一個では、とても放課後まで持ちこたえられそうになかった。愛鳥週間でもあるまいし。秀美は、そう思い、ひろ子の机の上の大量のパンを恨めし気に見た。彼女は、あらかじめ用意してあった紙袋に、丁寧にそのパンを入れていた。 分かっていて粛々と集める行事、そこに入れない僕。なるほど僕は勉強が出来ない。
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