今夜、星屑が積もる頃に

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 大人になると、忘れちゃうかもしれない。  森本さんの言葉が、胸にしみこむ。  どこかねじまがってしまって、くだらないとか、つまらないとか、欠点さがしばかりしていて、背筋を曲げて生きているなんて、もったいない。  わかっている、でも、でも。  傷ついたり、傷つけられるほうになるのが嫌で、今の自分がみじめになりそうでおびえて、素直とかまっすぐとか、きれいな、混じりけのないものをどこかへ置き忘れて、それは自分のせいなのに、また言い訳を探して、もがいている。 「おかあさーん!たくさんとれるよー!」  娘さんの、無邪気な姿と、嬉しそうな声をを目の当たりにして、恥ずかしくなってきた。 「星屑というか、この光の粒って、どうやってできていると思う?」  突然の、森本さんからの質問に私は首をかしげた。  雲の中から落ちてくるものだから、アラレやヒョウのような、氷の粒をちいさくしたようなものかと考えてみたけれど、手のひらの上で溶けないし、しかも光っているから、それだけではないだろう。  わからないと答えると、森本さんも「私もわからないのよ」と言った。 「わからないけれど、きれいなものは、きれいじゃない」 「はあ……」  狐につままれた気分だ。  森本さんは、ふだんからぼんやりした感じのあるタイプで、店長も不安だとか、任せられないとか言っている。  本人に直接ではなく、間接的に、ほかのパートのお母さんたちや、アルバイトに。あれも、店長なりの逃げ道なのだろう。  パートのお母さんたちには筒抜けなのに、本人には言わない。本当は、森本さん自身は、しっかりやっているし、パートのお母さんたちの間でも評判がいい。常連さんとも、ほがらかに話していたりする。
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