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このひとは、素直とかそういうものを取り戻して、自分なりの消化方法を見つけることができたのかもしれない。
私を過去の自分に似ているなんて、自意識過剰だって、またまた悪い癖でひねくれそうになって、恥ずかしくなった。
「光の粒は、自治体が検査期間に出したけれど、健康被害を起こす物質もないんですって。成分も、やっぱりわからないんですって。でも私は……こんなこと、単純かもしれないけれど、わからない方が素敵だと思うわ。佐野さんは、どう思う?」
意見を求められて、言葉につまった。
わかった方がすっきりするだろうけれど、わからない方が素敵だって思うこともある。なにもかも細かく調べることも大切だけれど、わからないことがあると、それだけで、神秘的だって思えてしまう。
「私も、森本さんと同じ……かもしれないです」
「そう、人それぞれだから、いろいろな意見があるけれど、同じでよかった。なんだか、嬉しいわ」
森本さんは、にっこりと笑った。
作り笑いではない笑顔を見たのは、もしかしたら久しぶりかもしれない。
「あともうひとつ、星屑祭りは、自分が迷っていたことに気づかされるきっかけに、なることもあるみたい。私もそうだったけれど、佐野さんも、同じかもしれないわね」
「……えっ?」
森本さんが、私の後ろを指差した。
「……保江ちゃん?」
保江ちゃん、と呼ばれたのも、久しぶりだった。
聞きなれた、懐かしい声に。
私が、会いたいけれど会いたくない、声の持ち主が立っていた。
ベージュのトレンチコートを着て、腰まで届く長い、黒い髪の毛をさらさらと冷たい風になびかせた彼女が、子犬みたいな、黒目の面積が多い瞳が、驚いた私をうつし、光の粒に負けないぐらい、きらきらとしている。
「菜見子!」
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