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「保江ちゃん、会えてよかった!」
菜見子は小走りで、私に近づいてくると、ぎゅっと抱きついてきた。
あったかい。いいにおい。
あの頃から変わらない、菜見子のにおい。
フローラル系の優しくて、甘くて、菜見子ぽいにおい。
私の、好きなにおい。
「菜見子、ごめん……結婚式のこと」
「大丈夫、保江ちゃんの会えたんだもん、怒ってなんかいないよ、本当だよ」
「おめでとう、菜見子。よかったね」
私はいつの間にか、涙を流していた。
本当は、おめでとうって、言いたかった。
本当は、菜見子に会いたかった。
本当は、幸せになってと祝福したかった。
まっすぐに言えば、気持ちを伝えればいいことなのに、私は言い訳とか劣等感とか、遠回りばっかりしていた。
菜見子のほうが大人だ。
素直になることって、難しくて、忘れちゃうのに、菜見子はなにもかも、受け入れるように、私を抱きしめてくれた。
私はもがいて、強がって、変な意地とか張っちゃって、勝手に負けたとか思い込んで、欠席の返事を出して、凝り固まってばかりだ。
「保江ちゃん、ほら、空を見て」
私と菜見子は、きらきら光る粒を地面に向かって降らせる夜空を見上げた。
雲のなかから、パラパラと雨のように降り注ぐ光の粒は、渇いた地面を潤すように、心を潤している。
騒がしい声はいつの間にかやんでいて、みんな、一斉に空を見上げていた。
子供たちも、光の粒でいっぱいになった洗面器やバケツを下げて、きらきらした眼差しで夢中になって見上げている。
「ねえ、菜見子。私まだ、結婚式の出欠間に合うかな?」
「もちろん、私、ぎりぎりまで待つつもりだったの。だから、保江ちゃんぜひ来てね」
「……」
ありがとう、と言いたかったのに、喉の奥が詰まって、涙しか出なかった。
私は何回も頷いて、菜見子の手を、ぎゅっと握った。
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