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スーパーマーケットの更衣室で、制服の暗い緑色をしたエプロンと、三角巾を身につけていると、近所の古い団地に住んでいるパートのお母さんたちが、私のところに届いたものと同じ招待状を手に、しゃべっている。
「あのう、これ」
おそるおそる話しかけると、お母さんたちは、私がなにをたずねたいかすぐにわかってくれた。
「あら、あなた星屑祭り知らないの?」
星屑祭り。ロマンティックな名前が、お母さんたちのかさついた唇から発せられ、とてもアンバランスに感じた。
「同じものが、うちにも来たんですけれど……」
「ここじゃ昔からやっているお祭りなんだけどね、うちの子も楽しみにしているのよ」
「それで、星屑祭りって……」
なにをする祭りなんですか、とたずねようしたら店内アナウンスで集合の指示が聞こえてきた。
「とにかく、いちどいらっしゃい。とってもきれいだから」
「……はあ」
パートのお母さんたちはせせこましく、子供のことや店長の愚痴を言いながら、店のほうへと行ってしまった。
パックに詰められた惣菜を並べたり、陳列棚の見栄えを考えたり、レジ打ちしたり、休憩時間も慌ただしく、スーパーマーケットで過ごす1日は、瞬く間に過ぎてしまう。
本当は、お昼休み以外の休憩時間も決められているけれど、店長の機嫌が悪くなるので、みんな休もうとはしないのだ。店が忙しくなると、店長室にこもってしまうくせに、私たちには厳しいと、みんなに嫌われている。
お母さんたちから、店長の愚痴を聞かない日はない。店長は、自分が嫌われていて、辛くなったり悲しくなったりしないのだろうか。
私ならきっと、好かれるようになろうって思うのに。目の前でわざと、細かいところを掃除したり、汚れ具合を見せたりなんかしないのに。
同じ時期に、店に異動してきた新入社員の岡本くんが、顔もきれいで爽やかで、てきぱきとしている人気者だから、岡本くんに対して、色々と八つ当たりをしている。
岡本くんも、今夜の星屑祭りに来るだろうか。
招待状がきたかどうか、私からたずねてみようか。
気にならない訳じゃないけれど、私は25歳で、岡本くんは23歳、年齢が近い相手が、岡本くん以外に、いなかった。
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