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招待状を広げてみた。公園の入り口が受け付けになっていて、身分証になるものと、招待状を提示することになっていた。免許証しかなかったので、それを提示した。
受け付けは混雑していて、人の群れに岡本くんの背中を見つけた。
隣には、誰もいなかった。ちょっとだけ安心している自分がいて、みっともなく感じた。
ときめきなんか、いまの職場に必要ない。あってはいけない。だって、ただのバイトみたいなもんじゃん。恋愛とか、ときめくようなことしている、してもいい立場だとは思えない。面倒だし。ばれたら、もっと面倒だし。
現実は、先を越された菜見子を見たせいでゆるゆると、焦っていく方向にいきつつある自分がいる。考えもないし、足が地に着いていない、危なっかしいままで。ほんとうに、人間ってどこで追い越されるかわからない。
菜見子は都心に大きなビルを持っている会社、私はスーパーマーケット。
パートのおせっかいなお母さんたちと、口うるさくて、ひがみっぽい店長と、なにを考えているかわからない、学生のアルバイトが動くちいさな社会で、必死にしがみつくようにして、生きている。
そのくせ、不満ばかりためこんでいる。
爆発しそうでしない、もやもやを抱えつつ、過ごしている。
娯楽もなにもない環境で、そのなかで好きになった、付き合ったなんて話が広がったら、たちまち悪目立ちしてしまうに決まっている。
店長なんか、きっと、ますます嫌な奴になるだろう。
岡本くんを、さらにきつい八つ当たりの対象にしたり、どんなに忙しくても、どんなに呼び出しても、店長室にこもってばかりなってしまうだろう。
そんな店長や、お母さんたちの不満げな表情を想像して、心にブレーキがかかってしまう。
付き合えば、別れだってある。
もしも別れることになったら、気まずい。私自身はもちろん、周囲も。
好きでもいないし、付き合ってもいないくせに私はどうして、取り越し苦労ばかりしているんだろう。私はいつから、こんなに臆病で、面倒くさがりの、ひっそりとした性格になってしまったのだろうか。
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