天衣無縫

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 仕方なく、奮起して掃除に取りかかる。  玄関を箒で掃くと、毛玉がいくつも靴箱の下から出てきた。  大きな粘着テープロールをカーペットのうえで往復させると、そこにも、白くて鋭い毛が一面網目(あみめ)になって張り付く。  普段ならカーテンも手入れがいるが、私の気分を変えようと夫が新調したばかりなので、猫の毛はついていない。    途中で嫌になり、また寝そべると、夫からメッセージが届いた。 「お土産あるから」  きっとお酒か、ケーキ。  選ぶ時間の分、帰宅時間が遅くなるのに。  目を瞑ると、換気のために開けた窓から隣の外壁工事の音が響いている。  構わず脱力していると、赤錆び色の眠りが訪れた。  微睡(まどろ)みが深まりきる寸前で、玄関チャイムが響き、跳ね起きた。  照さん?  いや、駅まで迎えに行くことになっている。  インターホンを取ると、小包みを持って配達員が立っていた。  化粧品が届いたのだ。小箱を受け取り、振り向くと、律儀に閉められたリビングのドアに気づく。足をすり抜けていく柔らかい生き物は、  も う い な い の に ね。  時計を見るとそろそろ照さんが新幹線を降りる頃だった。  窓を閉め、服を着替えていると、ほどなく「予定より早く着く」とメールが届く。  全く気乗りしない。不親切な性分の自分に呆れながら、家を出た。
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