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私の顔を見た照さんは、第一声、
「美也さん、随分かかったね」
と苦笑した。
「輝一くんに似ているから、すぐわかりました」
と私も真似をして苦笑した。
家までの道のりは、当たり障りのない話として、天候や町の利便性などを選んだ。
とはいえ、まだ夕方で、夫の帰宅まで3時間はある。話題のストックは多くない。
不安を隠して、真面目に来客対応をこなした。
上着を預かり、荷物の置き場所を示し、ソファへ座らせ紅茶を淹れる。
「お構いなく。雨が降りそうな日は、紅茶がよく香るね」
「テレビ、つけましょうか」
「いえ。結構。猫、飼ってるんだよね」
言いながら首をめぐらせる。
「先月、亡くなったんです」
一言で、空気が冷えた気がした。
「何歳で?」
慰められるかと思ったら、照さんは出しぬけにそう尋ねた。
「18歳で」
「へえ。うちのは10歳」
ほら、と手帳を開き、そこから紙片を取り出した。名刺ほどの画用紙に、顔を洗う仕草のトラ猫が描かれている。
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