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単純な線画なのに、思わず見入った。
猫特有の、手に持てば崩れるような柔らかい肉感が伝わってくる。
それから、小一時間、照さんは猫の話をした。名前はヨン様、近所の焼肉屋からもらった、などなど。
私がペットロスかどうかなんて、お構いなしだった。
「この家の子も描いてあげる」
と言い出すので、鉛筆と紙を渡し、チョコの説明した。
「目はいつも怒っていて、あまり可愛くないんです。足は白くて……」
照さんは、緩急をつけて鉛筆を走らせた。
柔らかい部分は軽く素早く、硬い線は手を止め力を溜めてから、一気に。
仕上がったその絵はなかなかチョコに似ていた。
けれど、まだ何かが違う。
「私が描いてみてもいいですか」
「どうぞ」
照さんの絵を見ながら、恐る恐る描いていく。冷蔵庫の上からはみ出る尻尾と手足、あぐらをかいた膝の中に収まる姿。
「僕より息子の方が、上手いよ」
照さんが私の手つきを見ながら言った。
「今回のことは、驚かれたでしょう」
と私が言うと、目を閉じた。どこか厚かましい風格が、空気が抜けたみたいに、しぼんだ。
「そりゃあもう」
「ヨン様は寂しがってませんか」
「猫はね、天衣無縫だから。飼い主が法に触れたかなんて、知らないからね」
照さんは、私から鉛筆を受け取り、また絵を描き始める。
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