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……ふう。
ドアの前。戻ってきた。
行きは初めての景色だったりで意識していなかったが、ここまで意外と距離がある。スニーカーだからよかったけど、革靴とかだったらもっと疲れていたかもしれない。
また戻るのかと思うと少し億劫だが、ここにいても何もすることはないしな。
まずは財布だ。あるだろうか。いや、無かったらここまで来た苦労が水の泡だ。それは困る。最低でも1000円はあるといいな。
少し緊張しながら、ドアノブに手をかける。
お願い、あってくれ……!
そう念じて、ドアを開けた。
ん?
入ってすぐ、隣を見る。靴箱。その上に置いてある長方形の黒い物体。手に取ってよく見てみる。革で出来ていて、ファスナーが付いている。
これは……財布だ。
待ってくれ。行くときに気が付かなかったか。こんなにわかりやすいところにあるのに。嫌でも目に入るぞ、これ。この財布の為だけに僕は一往復もしたのか。
まあ、今更悔やんでも仕方ない。そうだ。そう思うしかない。そう思っておこう。そうしないと僕の心がもたない。
そういえば、中身を見てなかったな。
ファスナーを開ける。どのくらいあるかな……
1、2、3……3万円。
予想していたよりも結構ある。これくらいあれば充分だ。見るのが基本だからそんなに買うこともないだろう。
お金も確保したし、出発しよう。またあの大通りに行って、そこから適当に店を探そう。
2度目の都会の景色を眺めながら、エレベーターへと向かった。
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