01(卒業式)

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『3月7日、シティにようこそ。飯松市立高校3年生の松本圭市様』  擬人化されたバーチャル案内アニマルの秋田犬はいつも通りだ。名前はスィフルと名付けた。メニュー画面左上のワイプに映る。  俺【松本圭市(まつもとけいいち)】はVR総合コミュニティ、“シティ”のバーチャル学校へ通ってる。その飯松高校は全校生徒1000人ほどの中規模だ。無事に卒業できて、ようやく鬱陶しい学校ともおさらば。 「よう、スィフル。飯松高校の校門にワープしてくれ」 『かしこまりました。良い卒業式を』  俺は家族に恵まれていない。母は俺が子供の頃に失踪した。それから父は酒乱になり、俺や兄の良太(りょうた)に当たるようになった。だから、伯父で寺の住職をしている、笹隼(ささぶさ)の家に厄介になっている。  俺は坊主で従兄の和事(わず)の紹介で飯松ウィステリア工業に就職が内定している。ズバリ言うとコネだ。しかし、長いこと勤めるつもりはない。いつかは探偵事務所を立ち上げようと考えてる。  幼馴染みの駒川弥生(こまがわやよい)も同じ会社から内定をもらってるようだ。  コネだけで給料の良い財閥経営の会社に入れる訳ではない。俺は幼い頃からゲームが好きだ。特にVRネットゲームのウォーライフ、勝率は9割。そこが評価されたようだ。 ――俺はバーチャル飯松高校の体育館に行くと、弥生さんが手招きをする。 『圭市君、こっちこっち』 「皆、アバターに気合いを入れてるね」  周りはド派手な卒業式仕様のアバターでごった返してる。弥生さんのアバターも振り袖姿だ。俺はミリタリー装備のアバター、いつもと変わらない。 『それはもちろん。一生に一度きりでしょ。圭市君は相変わらず、ミリタリーね。ウォーライフってゲームの』 「これのお陰で飯松ウィステリア工業に就職できる。ウォーライフ様々だぜ~。100万ドル集めないといけないし」 『まだ1億円に拘ってるの? おばさん、早く見付かるといいね』 「探偵事務所の運転資金にするか、大々的に有力情報の褒賞金にするか。おそらく、母さんはアメリカにいるはず」 『弥生~、記念撮影しよ』  他の女子生徒数人が弥生さんを連れていく。 『じゃあ、圭市君、来月の入社式でね』 「ああ、またね」  すると、いきなり俺は下級生の女子生徒に取り囲まれた。  輪の1人が背中を押され、俺の目の前に来る。 『まっ、松本先輩、第2ボタンをください』
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