第1章 家政婦を依頼したら執事が来ました。

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紅夏(べにか)は再び、猛然とキーを叩きだした。 気がつけば窓の外は真っ暗になっていた。 デジタルメモの明かりだけがぼぅっと紅夏の顔を照らし出す。 「ちょっと休憩……」 伸ばした右腕の肘を左手で掴み、思いっきり背伸びをすると身体がバキバキと音を立てた。 椅子に座りっぱなしの腰が微かにずきずきと痛む。 窓硝子に映る自分はあまりにも酷い姿でつい苦笑いが漏れた。 書くときはとにかく楽がしたくてダサい黒縁眼鏡にジャージ、そのうえ邪魔でひとつ結びにしていた髪はあたまを何度も激しく掻き回したせいでぼさぼさになっている。 もちろん、すっぴんもすっぴん、化粧水と乳液を付けただけ。 くるりと椅子を回転させ、立ち上がると腰を押さえてよろよろと部屋を出ようとした、が。 「……あれ?」 ガツッ、引き戸を開けようとして思いっきりなにかに引っかかった。
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