いつも通りなのに

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「あれ、巴さん? 俺より先に来てるとか…めちゃくちゃ早いね?」    カラカラと弓道場の引き戸を開け、足袋特有の足音をさせながら、私の右横に腰を下ろす、件の先輩。  草薙隼人(くさなぎ はやと)。引退間近の三年生で、三度の飯より弓道を選ぶ、生粋の弓道バカだ。    「お疲れ様です、隼人先輩。 ホームルームが早く終わったんですよ。 早く来た方が、的も空いてますしね」  「今じゃ、同時に射れるけどなぁ…」  「……そうやって細かいこと気にしてると、モテませんよ」  自虐気味に言葉を零す先輩に、いつも通りグッサリと言葉の矢を射る。  「あ……うん、ハイ……」  肩を落として完全に沈黙したのを見て、少し焦った。  流石に、言い過ぎたかな。    「……部員が激減したのは、先輩のせいじゃないです。 メニューも、過酷ですし」  もうすぐ引退する三年生は3人、二年生は……私、ただ一人。  初めは4人だったけれど……私を除いて、退部してしまった。  三年生は、隼人先輩以外はほぼ幽霊部員と化している。  だから……実質、部員は先輩と私の二人だけ。    「え、巴さんが俺をフォローした!? だ、大丈夫!? 何か変じゃない今日!?」  「やっぱり嘘です」    本気で慌て始める失礼な先輩には、このくらいの態度を取っても罰は当たるまい。
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