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翌朝、どこからかき集めてきたのか、ミツは大量の紙を総司の元に持って来た。
部屋の隅に出来た紙の山を見つめると、思わず苦笑が漏れる。
(本当に使い切れそうにないや。姉上には敵わないなぁ)
「折角用意して来たのですから、使い切らないと承知しませんよ」そう言ったミツの言葉を思い出し、心の中で感謝した。
姉のその気持ちが何より嬉しかったのだ。
早速手近にあった紙を数枚手に取ると、畳の上に綺麗に並べ、朝餉に出たご飯を煉って作っておいたのりで綺麗に貼りあわせ、一枚の大きな紙を作った。
それを満足気に見つめ、「よし」と呟くと文机に向かい、墨をすり始めた。
しかし、そこからが大変だった。
一畳分ほどの紙に書くには小さすぎる硯と筆での作業に病魔に侵された総司の身体は悲鳴を上げそうになる。
それでも休むことなく墨をすり、地道に文字を書き進めていく。
それを繰り返すこと数十回。
気付けば日は高くなり、もうすぐ昼であることを知らせていた。
「出来た」
汗のにじんだ顔を先ほどとは比べ物にならないくらいくしゃくしゃにして満足気に笑うと、出来上がったばかりの文字の横に倒れ込むようにして寝転がり、寝息を立て始めた。
ミツがそれに気付いたのは総司が眠ってすぐのことだった。
昼餉を持って入った部屋で目にしたのは、『誠』という文字の下にだんだら模様が書かれた大きな紙の横で幸せそうな顔で眠る総司の姿だった。
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