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総司自身、切腹という方法を思い付かなかったことに少なからず驚いていた。
京にいた頃はよく目にしていたどころか幾度となく介錯を務めてきたのだ。
それにも関わらず、土方に言われる今の今まで頭の隅にすら浮かんでこなかった。
自分がどれだけ強く皆と戦う事だけを望んでいたかと思うとおかしくもあり、少し誇らしくもあった。
「武士が切腹を忘れるなんて、士道不覚悟ですね」
そう言う総司の言葉にはいつもの冗談めいた調子が戻ってきていた。
「いいや、お前は今、立派に戦ってるんだ。士道不覚悟なわけがないだろ」
「でも、これはただの『沖田総司』としての戦いです。やっぱり『新選組の沖田総司』として戦いたかったなぁ」
総司は口を尖らせる。
「なら戦えばいいじゃないか」
「だってさっき土方さんが連れて行ってくれないって…」
「はぁ・・・なぁ、総司。戦場で刀や鉄砲をかまえている奴だけが戦ってるわけじゃねぇんだぞ。兵糧を調達する者、諜報活動をする者、そうやって皆それぞれの形で戦っているんだ。そいつらがいなきゃ俺達も戦えねぇ。お前はお前だけの戦い方をここで見つけろ」
そう言うと土方は掛布団をぽんぽんと軽く叩きさっと立ち上がった。
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