第一章 それぞれの戦いへ

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「んじゃ、そろそろ島田が迎えに来る頃だ。しばらくここには来れないがへばるんじゃねぇぞ」  さっさと部屋を出ていこうとする土方を「最後に一つだけ」と呼び止める。  ぴたっと背を向けたままの状態で立ち止まり、「どうした」と返した。  総司が何を言おうとしているのか思うところがあったのだろう。  その声は平静を装ってはいるものの少し震えていた。  そんな土方の様子に気付きつつも、総司はずっと気になっていたことを口にした。 「近藤さんはお元気ですか?」  びくりと土方の肩が微かに揺れたのを総司は見逃さなかった。  一瞬の間の後、くるりと振り返った土方は貼り付けたような笑顔で 「ああ、当たり前だ。近藤さんなら隊士たちと一緒に先に会津に向かっている」 と答えたのだった。  ずっと感じていた違和感の原因を知るには総司には充分すぎる答えだった。 「そうですか。近藤さんにもよろしく伝えてください」  そう笑顔で返すと「あぁ」と短い返事をして、土方はさっさと部屋から出て行ってしまった。
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