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「明日、沢山の紙を用意して欲しいのです」
「紙?文でも書くのですか?」
総司の様子と欲しているものに不安がよぎった。
土方にはあぁ言われたものの、やはり共に行くことを断られ、生きる希望をとうとう失ってしまったのではないか。
遺書を書き、自ら命を絶つ気ではないのか、と。
「文も書きたいですが、それよりも…」
そこで言葉を切り、強張った顔で自分を見つめる姉を安心させるようにふわっと柔らかな笑みを浮かべた。
「ここまで周りに面倒をかけてしぶとく生きておきながら、今更自らの命を絶とうなんてこれっぽっちも思っていませんから。」
冗談めいたそれは総司の強さであり、優しさだった。
総司が冗談を言うのは、相手を元気付けたい時、笑顔にしたい時、いつも誰かの為と決まっていた。
そしてそれはミツもよく分かっているところだった。
小さく頷くのを確認してから、総司は話を続けた。
「私には今新選組として刀を持って戦うだけの力はありません。兵糧を送るだけの金子も持っていません。だけど、土方さんが前に言っていたことを思い出したんです。私が元気になって、再び戦う日がくるかも知れないという可能性がみんなの希望になると。これでも私は新選組一番隊組長、沖田総司ですから」
総司はそう言うと、誇らしげに胸を張って見せた。
しかし、その顔は切なそうに笑っていた。
実際、鳥羽・伏見の戦いが始まる少し前、総司が大坂城へ下る際に土方がかけた言葉だった。
まさかその後自分の口から「刀の時代は終わったのか…」という言葉がこぼれるなどとは微塵も思っていなかった頃の事。
刀こそが一番だと思っていた新選組の隊士の中には総司が居れば戦況が良くなると信じていた者も少なくなかった。
ただ、それは少し前の出来事であって、遠い過去の事。
刀では鉄砲と渡り合えないと分かった今では『沖田総司』という存在が希望にならない事も戦意の向上に役立てない事も総司自身、よく分かっていた。
それでも。
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