第一章 それぞれの戦いへ

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ミツは言葉を失った。  本当は何も考えず、ゆっくり養生して欲しかった。  少しでも自分の身体を大切にして欲しかった。  しかし、総司の顔は真剣そのものだった。  そんな彼を見ていると「あなたは今も十分病と闘っているのだから」と宥めることも出来なかった。  幼いころに天然理心流の試衛館道場に預け、離ればなれで暮らすようになってから今まで、ずっとミツの中で総司は幼い「惣二郎」のままだった。  それが、近藤や土方達と出会い、京へ赴き、沢山の事を経験し、本物の武士の背中を見てこうやって立派に成長したのだ。  きっと総司を今繋ぎとめているものは「新選組」なのだ。  彼らと共に戦う。 それが彼の一番の望み。  ミツにはもう総司の望みを断る理由はなかった。 「分かりました」  そう静かに答えると、すっと立ちあがり 「約束します。明日、必ずあなたが使い切れないほどの紙を持って来ますから、今日はもう休みなさい」 と、総司を部屋まで連れて行き、布団に潜り込むのを確認するとそれ以上は何も言わず帰っていった。  目からは寂しさからか、立派になった彼への喜びからか、自分でも分からない涙が静かに溢れ、頬を伝っていた。
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