第一章 それぞれの戦いへ

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  さしむかふ 心は清き 水かがみ  土方によく似合っていると思った。  次の頁からは思わず吹き出すような句も含めて一頁につき五句ずつ詰め込まれていた。  どれも土方らしいと思い、腹を抱えて笑ったのを覚えている。  しかし、この句だけは土方の句と言うよりも土方自身を詠んだものに感じた。  それから総司は、土方の事を「水のようだ」と思うようになった。  状況に応じて変幻自在に姿を変える柔軟さ、川の流れの様に自分で進む道を切り開いていく力強さ、優しさと厳しさを併せ持っているところ、意外と繊細な一面を持つところ、そして、水がなければ人は生きられないように、土方がいなければきっと新選組は疾うの昔になくなってしまっていただろう。  どこをとってもこれほど彼に重なるものはないと思った。 (それに、たまに雷を落としますしね)  これを本人に言ったらどんな顔をするだろうと、昼間やって来た土方を思い浮かべて思わず笑みがこぼれる。  土方が来てから、総司は少し元気を取り戻していた。 「土方さんが水で私が花、なんて言ったら綺麗すぎだって鼻で笑うかなぁ」  逐一彼の反応を想像すると楽しくなってくる。  でも―― 「最期くらい綺麗に終わったっていいですよね。散りゆく桜の様に…心は潔く…」  そう呟き、再びまじまじと自分の書いた句を見る。  動かなければ自分と土方達との間を闇が分け隔ててしまう。  それなら、自分も動けば良いのだ。  そんな決意を含んだ句に強く頷くと、総司はそれを文机の引き出しにそっとしまい、行灯の明かりを消すと布団に潜り込んだ。  そしてあっという間に寝息を立て始めた。明日から始まる戦いに備えるかのように…。
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