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暫くして総司の部屋から出た弟子の手には、日中総司が書いた大きな『誠』の旗がしっかりと抱えられていた。
自室へ向けて縁側を進みながら、松本はそれを横目に流し見る。
「本当にやるつもりか?」
「勿論です。約束を違うわけにはいきません。それに・・・何故か力になりたいと思わせられます。彼には」
「お前もか」
優しい表情の弟子の笑いに、呆れ混じりの笑いを重ねてそう呟くと、松本は突然足を止めた。
弟子もつられて足を止め、松本の顔を見ると今まで見たことのないような、辛く、自分を責めたような顔がそこにあった。
『身を切られるような思い』の時、人はこのような顔をするのだろう。
「・・・少し話さないか?」
弱々しく発せられた言葉には、いつもの自信や強気さは微塵も感じられなかった。
しかし、それにはいつも以上に人を動かす力があった。
弟子が小さく首を縦に動かすのを確認すると、医療道具を抱えたままにも関わらず、そのまま2人は縁側を降りて草履を履くと連れだって出かけて行った。
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