第一章 それぞれの戦いへ

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足手まとい。  それが自分をあえて突き放す為に出た彼なりの優しさだとは分かっていた。  それでも土方の口からその言葉を聞いた途端、総司の目には咳のせいだけではない涙が込み上げてきた。  お前は新選組には必要ないと一番言われたくない相手からそう言われたような気がしたのだ。  しかし、気付かれまいと必死に涙を堪える。  これ以上土方に弱い奴、頼りにならない、と思われるのが怖かった。  そんな総司の気持ちを知ってか知らずか、土方は「それに」と同じ調子で話を進める。 「そんなに武士として死にたきゃ最悪一人腹だって切れたはずだろ」 「・・・思いつきもしませんでした」  ようやく咳が治まり、潤んだ瞳で土方を見上げながら絞り出すような声で言う総司に「だろうな」と意地悪な顔を見せる。 「お前に『武士として』なんて似合わねぇんだよ。ただ剣を交えてぇんだろ。ま、したいって言っても切腹なんてさせてやらねぇよ」  その言葉に総司は小さく頷く。 「お前は生きるんだ。戦が終われば俺がいくらでも相手してやる」  そう言いながらゆっくりと総司の身体を布団に横たえる土方の目はどこまでも優しかった。
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