序章  予言メール

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     このいかがわしい文章はEメールで世界中ばらまかれた。それも全てのPC、携帯、とにかくメール受信機能がある物全てにである。さらに、それは御丁寧にも受信した国の言語で書かれていた。  今までに何度となく世界中にコンピューターウィルスがばらまかれたが、全てのパソコンに行き渡った試しはない。  この予言にウィルスは添付されていなかったが、その技術に関係者は強い危機感を抱いた。当然、犯人に結びつく手がかりは全くつかめなかった。  予言の内容にも敏感に反応する者が多く現れた。新興宗教団体やインチキ霊能者が人々の不安をあおり、マスコミがそれを非難する一方である意味協力をしていた。  だが、事件の真相を正確に把握している者は誰一人としていなかった。  予言メールが世界中を騒がせて一ヶ月がたとうというころ、ジョージ・ブラウンは静かな夜のひと時を妻のアリシアと共に過ごしていた。  アリシアとこうしてTVを観るのが、ジョージにとって最もくつろげる時間だ。アリシアと連れ添って間もなく三十年になろうとしている。その間に色々な事があったが、今は二人だけの生活が戻ってきた。末っ子のアンディが家を出て一年、家がすこし広くなったような気がするが、それにも大分なれた。 「あなた、ベンの吠えかたがおかしくありませんか?」  不安げにアリシアが言った。ベンがこんな吠え方をするのはたしかに珍しい。 「ちょっと様子を見てこよう」  ジョージは立ち上がるとライフルをとりに行った。  不安がるアリシアをなだめ、ジョージは家を出た。空には満月が輝き、懐中電灯は必要なさそうだ。ジョージはベンの声がする方へ慎重に近づいていった。ベンはシェパードの雑種で、アンディが家を出てから飼い始めた。  ベンは、家のすぐ近くにあるスクラップ置き場に向かって吠え続けていた。スクラップ置き場までは一〇〇メートルも離れておらず、その間は見晴らしもいい。ジョージは念のため、懐中電灯を点けて辺りを注意深く窺ったが、人の気配は全くなかった。
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