1、折れない恋心

1/3
前へ
/13ページ
次へ

1、折れない恋心

「かっこいいなぁ」  田中(たなか)梨々花(りりか)は小さくつぶやく。  視線の先にいるのは音楽部の部長をつとめる竹下(たけした)星也(せいや)。新入生歓迎会と称した部活紹介イベントのステージに立ち、バンドメンバーと一緒に、はじけるような笑顔で楽しそうにベースを弾いていた。 「去年よりかっこいい」  新入生のほうをチラッと見て、梨々花は口をとがらせる。 「絶対またファン増える」 「入部希望は男子のほうが多いかもよ」  一緒にステージを見ていた木野(きの)桜子(さくらこ)が、なだめるように言った。 「ううん、女子が多いに決まってる。去年だってそうだったし」 「でも、最終的に残った女子部員は私らだけじゃない」 「そうだけどさ」  梨々花はステージに視線を戻す。 「あたしみたいに竹下先輩めあての子が来る確率は高いよね」  音楽部内で組まれているいくつかのバンドのなかで、竹下のバンドだけは三年生のみで構成されている。いわゆる邦ロックの曲が得意なバンドで、この場は新入部員の勧誘が目的なので、人気バンドの曲やアニメ主題歌などを演奏している。新入生たちの様子を見ると受けは悪くなさそうそうだ。  去年、梨々花はこの新歓のステージで、一学年先輩の竹下に一目惚れした。  初心者で入部して、彼にマンツーマンでベースを教えてもらい、先輩と後輩としてはかなり親しくなれたと思うのだが、そこから先に進むことが出来ないでいる。 「どうしたら本気で好きってわかってもらえるんだろ……」  竹下への片想い歴は今日で丸一年――梨々花はため息をついた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加