3、この呪いが解けたなら

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 イベントの最後(トリ)をかざるバンドを、梨々花は圧倒されて口をぽかんと開けたまま眺めた。 「最強だろ、これ」  楽屋から出て来て隣に並んだ竹下が悔しそうに、だが高揚した気分を隠しきれない様子で言った。  ロックより激しく力強い、梨々花が初めて聞くタイプの曲調で、小柄なボーカルの男の子がシャウトするたび背筋がぞくぞくした。二人のギタリストの奏でる音は絡み合って脳みそを痺れさせ、いったいどうやっているかわからないほど高速で叩かれるドラムと、腹に響くような重いベースの音が乱れることなくリズムを刻む。 「やっぱ、あのベースいい音するなあ」  竹下が梨々花の耳に口を寄せて話す。吐息がかかり、心臓がどきんと高鳴った。  まわりの観客を見てみると、誰もがステージに目を奪われ夢中で爆音に浸っているようだ。  梨々花は最終兵器を繰り出すなら今だ、と覚悟を決めた。片手を伸ばし、竹下の顔をクイッと自分の方に向かせて唇を狙う。  時間にして1秒ほど。  二人の唇はちゃんとキスの形で触れ合って、離れた。  竹下の目が梨々花を見つめる。笑いのない真顔は、一瞬にして赤くなった。 「大好きです」  演奏にかき消されそうな声で十回目の告白をする。 「ねえ先輩、呪い解けた?」  白雪姫だって眠りの森の美女だって、みんな王子様のキスで呪いが解けて幸せになるのだ。だから、この魔王様の呪いも勇者リリカの名のもとに聖なるキスで解いてやる――緊張と恐怖で震える手を、梨々花は祈るように胸の前で合わせて竹下を見つめた。 「参った……もう降参」  真っ赤になった顔を両手で隠し、竹下はしゃがみこんでしまった。 「あのね、あたし考えたの」  梨々花もしゃがみこみ、竹下の耳にささやく。 「先輩の方から告ったらいいんじゃないかな」 「勘弁してください」 「ほら、早く言って」  長い指の間から、竹下の目がちらっとのぞいた。 「あたしのこと好き? 嫌い?」 「……好きです。俺とつきあってください」  竹下は細長い首まで赤く染めている。 「イエス!」  ついに陥落した魔王を前に、梨々花は勝利のガッツポーズを決めて跳び上がった。
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