第三章

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 えへへと笑う黒崎の手が伸びて、堀切の髪をよしよしと撫でた。そのまま顔を近づけられて、堀切は首を傾げる。 「……今晩は、ジュウにいっぱいあやしてもらうんだよ? ジュウはああ見えて泣いてる子には優しいの。今晩はちゃんと仲直りエッチするんだよ?」  堀切は思考が停止した。 「へ?」  今、なんて。 「え?聞こえないの?ジュウと仲直りエッチしてねって言っt」 「 な に を い っ て る ん で す か……!!」  聞き間違いではなかった。  堀切は真っ赤になりながら、黒崎を押し返した。もう涙と恥ずかしさと腹ただしいのとどういう心境なのか自分でもよく分からないが、とにかくこんなタイミングで言う黒崎の神経が理解できなかった。 「え?どうして?仲直りエッチってすごく燃えるらしいよ?」  相変わらずきょとんとする黒崎の頭にはファンシーな綿菓子でも生えていそうだ。切迫した状況だというのにまるで緊張感が感じられない。 「母親が危ないかも知れないのに、そんなことできるわけがないじゃないですか!!」  噛みつかん勢いで言い放ったつもりだが、黒崎は「え~?」と不満そうに返すだけだった。 「まぁいいや、僕もそろそろ病院に向かわないとだから、今日はこの辺でおいとまするね! お母さんの検査結果が出たらここに戻ってくるよ」  黒崎は言うなり立ち上がり、傍のベンチに置いてあった自分の鞄を取りに行った。傍らの紙袋は池に落ちた時の洋服に違いない。 「悪いな、世話になる。請求書ができたら直接俺にメールしてくれ」 「あ、そうだね~。ジュウの頼みなら、親父も気を利かせてくれると思うけど、請求額を出すには時間がかかるからよ?」  生々しい話を交わす勝鬨と黒崎の会話は耳が痛い。黒崎の病院に母を預け、その費用は勝鬨に出してもらう形になった。今はこれが最良の選択だと信じるしかない。  堀切は立ち上がり、温室を出て行く黒崎に深く深く頭を下げたのだった。
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