第三章

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**  黒崎と共に鷹瀬と寿賀も帰路につき、夕食も片付けられて温室には勝鬨と堀切だけになった。住居スペースにある堀切の寝室に戻ると、勝鬨に背中を押された。 「早く寝とけ」  勝鬨はそう言うなりベットを通り越して壁に備え付けの小棚に近づいていく。ボディクリームやスクラブなど女性が好みそうなケア用品や、情事の後に使うおしぼり、昨晩まで使っていた治療用の薬が置いてある棚である。堀切は身構えたが、勝鬨の指先は件の塗り薬には向かわなかったので、ほっと安堵の息を吐く。  堀切がベットに乗り上げて掛け布団の合間に身体を滑り込ませた後、丁度良いタイミングで勝鬨が振り返った。勝鬨の手には冷えたおしぼりが握られ、ベットサイドに腰を下ろすと、手にしていたそれを堀切の瞼の上に置いた。 「冷たいです……」 「眼が赤い。そんなんじゃ明日、瞼が腫れるぞ」  おしぼりがひんやりして気持ちいい。このまま寝ていれば明日にはマシな顔になっていそうだ。 「今日はそのまま寝ちまいな、明日また起こしに来る」  ベットのスプリングが揺れたので、勝鬨が腰を上げたのが分かった。堀切は思わず「あ……」と呼び止めるような声を上げてしまった。 「あ?」  うっかり呼び止めてしまった声に勝鬨が疑問を返してくる。おしぼりを持ち上げると、まだすぐ傍に勝鬨は立っていた。 「どうした?」 「……あ、ごめんなさい、つい……」  つい引き留めてしまった、と言おうとして、まごついた。  言わなければいけないことはたくさんある筈なのに、どれも今は言うべきじゃ無いと突っ返されそうで怖い。だって、じっと見下ろしてくる勝鬨の視線が少しだけ柔らかい気がする。
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