第三章

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「……お仕事に支障はないですか?」 「明日は土曜で、仕事は休みだ。暇してるだけだから構わん」  勝鬨はそれだけ返すと、スマホもサイドボードにおいて眼を閉じてしまった。  驚くほどにすんなりと応じてくれた勝鬨の存在がなんだか不思議で、堀切は緩くなったおしぼりをおでこにずらしながら考える。ぼうっと眺める天井は、暗がりの中でも分かるほど、高くて白くて綺麗だった。  ふと病室の天井もこんな感じなんだろうかと思うと、不安がぶり返してくる。押し寄せる波のように不安は押し寄せてきて、鼻の奥をツンとさせる。それを悟られたくなくておしぼりを再び瞼の上に乗せたりした。 「……黒崎が泣いて良いと言っていたけどな、」  ぽつりと低い声が届いて、堀切はおしぼりを捲って勝鬨に視線をやった。 「……泣きすぎるのは逆によくないんだそうだ。親のことでうじうじ泣くなら、別の意味で泣かしてやるぞ」 「――別の意味で泣く……?」  言葉の含む意味が取れなくて聞き返すと、勝鬨の手のひらが堀切の内股を撫でた。その瞬間に堀切は真っ赤になり、足を閉じて身体を反転させた。 「結構です…っ!」  背を向けた勝鬨の表情は分からないが、クツクツ笑っている声が聞こえる。からかわれたのだと思うと余計に恥ずかしくなった。  結局その夜は勝鬨の存在に気が逸れてよく眠れなかった。  けれど勝鬨が堀切に触れることもなかった。
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