Prolog

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    カンカン、と値上げを催促する木槌の音がする。オークションなんてアプリでしか知らなかったけれど、元はこうして司会者と客と商品が近しい距離で競り合うものなのだろう。  人生で始めて経験する本場のオークション。しかし堀切には金輪際、関わり合いのないことだ。金があれば此処には――――出品される側にはいない。これから先の、例えば数時間後に人権を保障されているかも怪しい。 「映画や小説で人身売買のシーンを見たことがあるだろ? 人肉嗜好者に食われるとか、変態に調教されるとかな。闇市ってのは、そういう表層の市場に出回らないものが競られるんだ」 愛僕――――愛犬・あいけん として売られるのはそういうコトだからな。  裏方にいた黒服の言葉を思いだし、背筋にぞくりと悪寒が走る。それは背から降りていき膝を震わせる。  くすり、何処からか笑い声が聞こえた気がした。  首輪と鎖で繋がれた堀切はただでさえ嘲笑的な姿だろうに、子鹿のように震えていては輪を掛けて惨めに映るのだろう。
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