Prolog

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「1億8000万出ました! そのほかはいかがでしょうか?」  手が上がる度に値が更新されていく。堀切は手を上げる男たちを見ないように俯いていた。どんな酔狂な目で自分を見ているのか考えただけでも恐ろしい。どれも粘ついた声に聞こえるし、性癖や嗜好がねじ曲がったいかにも気味が悪い人間たちを妄想する。そんな男たちに買われた後は一体どうなるのか?  人生で関わりたくない全ての災難に苛まれるんじゃないだろうか。 「……っ」  助けて  漏れそうになったその言葉を飲み込んだ。  その言葉をけして言うまいとあれほど自分に言い聞かせたのだから。噛みしめた唇はかすかに震えていた。 「1億8000万以上はおりませんか?」  あれほど小刻みに更新されていた言い値が勢いを欠いている。黒服の司会は何拍か間を取り、大きく息を吸い込んだ。 「それではこの競りはこれで――」 「3億だ」  活況を呈する会場の熱気を吹き消す一声だった。まるで玉音のような。
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