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「随分、黒崎と仲を深めたようだな」
夕食の支度が整ったと知らせを受けていつもの食卓スペースにやってくると、勝鬨は先に席に座って待っていた。スーツから着替えたその姿は、柔らかな生地の白いシャツと焦げ茶のチノパンを合わせたラフなのに、体躯に恵まれているからなのか、上品に着こなしたモデルのようだった。整えていた黒髪も適度に乱して横に流しており、その力の抜き方が大人の遊びを心得ている。いつも以上にラフな姿をしているのに、彼の緑色の瞼は堀切を捉えて細められていた。
(――もう、解る。
この人は、俺に敬語で話しかけるときは”天使様”として扱っているとき。
こうやって高圧的に話す時は”愛僕・堀切”として扱っているときだ)
毎朝、顔を合わせて開口一番に敬語で話しかけてくるのは、有無を言わさず”天使様”としてふるまえと強要しているのと同じことなのだ。
今、こうやって堀切を天使様扱いしないのは、黒崎が牙城を崩すように「遥くん」と呼んでくれるから。
そう思うと一気に緊張する。
自分を守る防具を全て脱いでいるような感覚に襲われて、堀切は俯いてしまった。
「そうだよ~! すっかり遥くんと仲良くなっちゃった! ジュウがいないうちにね!」
ポン!と堀切の背後から肩を叩いた黒崎は屈託なく笑う。そんなことを言われてすくみ上がってしまったが、黒崎は堀切の心労などまるで気づいていないようだった。
「それは良かった。楽しい夕食になりそうだな」
勝鬨は先に用意されている緑茶の湯飲みを口に運びながら視線をそらしてしまった。
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