第三章

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 夕食のテーブルには四人分の席が用意されていた。円卓の上座に勝鬨、その隣に堀切。堀切の横に黒崎が座って、その横に寿賀が座るらしい。寿賀の横には勝鬨がいて、これで一周する。鷹瀬は寿賀と勝鬨の間に起立して、使用人と共にボトルの蓋を開けたりと給仕に徹していた。 「ミッチーも一緒にご飯食べるの?! 久しぶりだね~! お酒飲もうよ!」 「ありがとうございます。ワインならお付き合いします」  黒崎が嬉しそうに寿賀に話しかけているのが救いに思えた。正面に座る寿賀と目が合うと何を話して良いか解らなくなるのと、話し相手がいない勝鬨は、慣れない手つきの堀切をなんだかんだ助けてくれる。 「サザエの壺焼きは食ったことが無いのか?」  サザエの壺焼きの中身を綺麗に繰り出してくれたのは有り難かったりするし、堀切が本当に困っているときはすぐに気づいてくれる。これは天使様や堀切の使い分けに関係なしに目聡くて、うっかり何もかも忘れて頼ってしまいそうになった。 「ありがとうございます……」  ほこほこと湯気を上らせるサザエの中身を小皿に取り分けてもらった後、堀切は勝鬨に礼を告げた。そして箸でサザエを摘まむ前に、黒崎との会話を思い出した。 (そうだ、3億円で買ってくれた御礼を言おうと思っていたんだ……)  この一週間、自分の身の振り方ばかり考えていて肝心なことに目が行かなくなっていた。勝鬨が敵なのか味方なのか自分の中ではっきりしないからこうやって後回しにしてしまうことが出てくるのだ。昔からの悪癖にこんな時にも足を掬われる。自分は視野が狭くてどんくさい。  今なら、黒崎もいるからもしもの時は助けてくれるかも知れない。 「……勝鬨様、あの……」  堀切が声を掛けると、勝鬨は眉を寄せながら堀切に顔を向けた。 『重慶さん』ではなく『勝鬨様』と呼びかけたからかもしれない。けれど今は堀切遥として話をしたいのだ。だから言い直すことはしない。箸を置いてキュっと自分の膝を掴みながら、切り出した。
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