第三章

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「確か、山口さんという方です!確かに真っ当な職業の方ではないと言っていましたが、親身になってくれて……、日本では認められていないかもしれないけど、身体を売ること自体はアジアではよくあることだからって……」 「まぁ、日本でも売春はあるしねぇ」 「母は心臓が悪いんです。中々医者にもかかれなかったから、気づいた時には心臓の難しい手術ができる先生を見つけないといけなくなっていて……もう、父の遺産も底を突く所まできていたし、だから、……お金を作ろうと、思って、オークションに出たんです……」  話している途中から語尾がしぼんでいく。堀切は黒崎の真っ黒な瞼を見ていることが怖くなって円卓に視線を落した。  母が――、  ずっと、貧しい中で支えてくれた母だから。  もう会えないかもしれないけれど、助かって生きてくれれば良いと言い聞かせて 「山口さんは、きちんと契約書も作ってくれました。落札したお金は何割か差し引かれるけど、俺の取り分は希望通りに母の口座に入れてくれるって……オークションに行くまでもずっと付いていてくれて……」  堀切は震え始めた指先をきゅっと握りしめた。黒崎が黙って聞いているのが怖い。 「その契約書ってどこにあるの?」  黒崎の声はいつも通り柔らかい。子供が解らないことを先生に問うように聞く。堀切は一週間前の記憶を必死に引っ張り出そうとした。 「契約書は、山口さんが持っていると……」 「割り印押された書類とか、コピーの書類とか、持ってないの?」  首の後ろがざわざわと震える。
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