第三章

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2 「帰ります、帰って、早く母のもとに行かないと……!」  母はまだ市営の病院にいるのかもしれない。そこには手術ができる医師はいないけれど、転院先が見つかるまでは置いてくれると言っていた。けれど早く手を打たないとどんどん危なくなっているはずだ。  堀切が勢いよく立ち上がると、勝鬨に腕を取られた。 「帰ってどうするんだ?」 「どうって、お金を作って、病院に……」 「金がないからお前はここにいるんじゃないのか?」  堀切を睨み付ける緑の瞼が険しく歪められている。低い声色で追い詰めてくる勝鬨の圧に屈しそうになるが、どうにもならない現実を振り払うように勝鬨の腕を払った。 「でも、母が救われないなら、ここにいる意味はないじゃないですか……っ!」  ――――いろいろと、大変な状況ですよね。でも、打開策を提供できますよ。 あんな言葉を信じたのが間違いだったの? 頭の中がパンクしそうだった。今までいろんな人に支えられて生きてきたのに、こんな人生の局面で騙されるなんてあるわけが無い。病院に戻って、確かめなければ。
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