第三章

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「じゃぁ、林さんに……返して貰えるように、頼みます! 約束が違うって、きちんと説明をして貰って……っ」 「ヤクザの事務所に乗り込んだら親より先に仏にされるぞ?」  ぐっと言葉を詰まらせる。けれど何かを言い返したくて唇を噛んだ。すぐ後ろにいる男が怖い、けれどそれ以上に、頭が煮えたぎるほど熱くなった。 「林に話をつけて返金させるなら、お前はまた同じオークションに出品されるだろうな? 今度は食肉嗜好者にでも買われるかもしれん。生きて親の顔なんて二度と見られなくなるな」 「……っそれなら、もうそれでいいじゃないですか!!」  堀切は噛みつかん勢いで振り返り、すぐ後ろにいる勝鬨を押し返した。重たい男の身体が退くわけもなく、反動で自分の方が扉に背をぶつける羽目になったが、距離が取れればそれで良かった。 「他人事だと思って好き放題言わないで下さい!! 親を助けたいのなんて当り前じゃないですか! 親が苦しんでるときに、自分だけこんなところでのうのうと過ごしていられる訳がない!!」    心底、腹が立つ。怒りで頭がパンクしそうで、目が回りそうだ。 「鷹瀬さんが林さんのことを知っていたなら、俺が騙されてるかもしれないってことを勝鬨さんは知っていたんですか?!」 「お前が騙されているかはどうかは知らなかったが、母親がすでに危ないことは知っているな」    勝鬨はあまりに無慈悲に言い捨てた。堀切は信じられないものを見るような目で勝鬨を見上げた。  この男は全部知っていて黙っていたのか。平然とした態度で淫蕩なことを強要して、堀切の母が死ぬのを黙認していたのか? 堀切が何も知らないのを良いことに、エレインの事ばかり考えて。  そこまで考えついた時、堀切の中で何かが振り切れた。
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