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人はなんでこんなにも眠るんだろう。電車で眠る人を見た後にいつもこう思う。
他の動物はこんなに長く寝たりしないし、こんなに深い眠りに落ちることもない。細かい、浅い睡眠を繰り返すだけでも生きていけるのなら人間もそうすればいいのに。
まぁ、思っただけで現実が変わるわけもなく、今日もまた終電で終点駅まで寝過ごした人を起こしてから俺は帰路に就くんだろう。・・・・・・バイトやめちまおうかなぁ。
『まもなく終点寝隅──』
下らないことを考えているうちにもう終点だ。終電の電車で眠るやつは割りと多い。疲れているからかつい寝てしまうのだ。元々終点で降りる俺も割りとよく眠る。
今回は・・・・・・女性が一人眠ったままだ。起きる気配もないし起こしてしまおう。他の人はどんどん降りていくし、放っておいても結局車掌さんが起こすはめになる。だから俺がやるのだ。
「あの──」
──終点ですよ、と言おうとしたところで口が止まる。いや、止まってしまった。
燃えるような赤い髪の女。月並みな言葉だけれど、本当に燃えているかのように赤い髪の女の子が乗車してきたのだ。染めているとは思えない質感の、現実的に非現実的な色の髪につい困惑してしまった。
恐らくほぼ確実に地毛だろうその髪をジロジロ見るのも悪いので今度こそ女性を起こして去ろう。早く帰って眠りたいんだ、俺は。
「待ちなさい、その人を起こさないで。そしてあなたは早く出るのよ」
「え、でも終点・・・・・・」
起こすな?終点なんだから起こさないと駄目だろう。そもそも君はなんで乗車してきたんだ。もうこの電車は回送なのに。
頭に浮かんだ言葉をそのまま口に出してやろう。そう思って口を開けたとき・・・・・・また口が止まってしまった。
「もう来た・・・・・・!タイミング最悪!」
女の子がそう言った途端、世界が塗り変わったのだ。ネガフィルムで撮られた世界のような色合いの不気味な世界に。あまりにも非現実的すぎて夢かと疑いたくなる。
まともな色をしているのは眠っている女性と女の子だけ。・・・・・・俺の体まで気味の悪い色に変わっていた。
「なんだ・・・・・・これ。何が起こってんだ!?」
「やっぱ巻き込んだか。あんた隠れてなさい!・・・・・・来る!」
来る?何が?そう尋ねる前に、巨大なそれ突如駅のホームに現れたのだ。
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