作文

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 それから三十年ほどが過ぎ、私は結婚をして幸せな家族に恵まれた。小学校を卒業すると猛とは中学が別になって会うことも無くなった。幾度か彼に年賀状を送ったのだが、彼の性格からか一度も返事は無く、それっきり疎遠になってしまったので、彼が今どこでどうしているかは分からない。  私は、来月の転勤のため、引越しの準備をしていたのだが、荷物をダンボールに詰める作業をしていると、不意にあの問題の作文が出て来た。私は休憩と称してコーヒーを飲みながらその作文を読んでみた。それは、大きな文字で書き殴られた稚拙な作文ではあるのだが、嘘などは一つも書かれていなかった。  秘密基地といえば、当時の子供たちなら誰もがそう称していた場所があった筈だが、私たちにも、二人だけの秘密の空間があった。それは、建て替えの為に一時放置された工場の、隅に置かれた瓦礫の山の隙間に出来ていたのだが、私たちは、ある日が来るまでは、毎日のようにそこへ通っていた。  学校の帰りの会が終わると直ぐに教室を飛び出し、ランドセルの中の物を小刻みに鳴らして軽やかに走り、コウモリ傘をライフルに見立てて、見えない敵を撃ち倒しながら秘密基地へと向かったものだ。猛が、自分はナチスドイツ軍の兵士だと言うので、それなら私は日本軍の兵士となり、同盟を結んで作戦行動をするのが当たり前だった。
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