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戦争ごっこ
「援護にメッサーシュミットを呼んだけ、アキラも零戦を出すように無線で要請して。」
二人の遊び場は専ら学校帰りの川沿いのあぜ道。コウモリ傘を銃に見立てていつも敵を探しながら帰った。猛はナチスドイツのファンで、ナチスの戦機をよく知っていた。私が無線機に見立てたランドセルを下ろしながら、
「分かった。タケシ。」
と答えると、
「バカ!俺は今ナチスドイツ軍のハインリッヒ軍曹なんばい。間違えるなっちゃ!」
と、なりきって吠える。
「了解!ハインリッヒ軍曹!」
私が大声で敬礼すると、
「シッ!静かに。大声を出すな、アキラ。シャーマン戦車に気づかれたら俺たち木っ端微塵ばい。アキラ、人が死んだの見たことあるか?昨日テレビでやりよったばい。」
彼は時代考証にしくじった。
「は?テレビ?ハインリッヒ軍曹、今は第二次世界大戦中ですが?」
私が指摘すると、
「バカ、今は良いんよ。ここだけの話やん、もう。昨日見た?」
と言い訳。
「ああ、白黒の残酷なやつやろ?」
「そう。早く戦争を終わらせないかんっちゃが。」
「いや、でも、あれ、」
私は、ナチスによるアウシュビッツの映像だったことを言いかけたが、彼の機嫌を損ねまいとして口を閉じた。
「なん?早く終わって欲しくないん?」
「あ、いや、早く、」
私が言い終わる前に猛が突然倒れる。
「伏せろ!アキラ、シャーマンが来とう。」
私も草むらに倒れ込み猛が見ている方向をにらむ。
「弱いくせにアリみたいに沢山出てくる戦車やね。よし、タイガー戦車を要請しちゃる。」
彼は自分のランドセルを下ろし、中から物差しを出してランドセルに刺した。
「こちらハインリッヒ軍曹、本部どうぞ。こちら、ハインリッヒ、ああ、だめやん、故障しとう。」
「俺の貸そか?」
と私が言う。
「バカ、日本軍とナチスの無線機はレベルが違う。日本軍の無線機とか使いよったらすぐに解読されるっちゃ。エニグマとか知らんの?」
「知らんけど。」
と答えている間にまた彼は伏せる。
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