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「やばい、歩兵に見つかった。アキラ、俺は向こうの壁に走るけ援護して。俺が向こうに着いたら今度は俺がアキラを援護するけ。」
「援護っち、なん?」
私が訊くと、
「援護も知らんと?えっと、あのう、銃を撃てば良いちゃが。」
私は少し考えて理解する。
「ああ、撃ったら敵が隠れるけ、その間に走って行くんやね、ああ、分かった分かった。」
「おお、アキラも一人前になったやん。じゃ、行くばい。」
すかさず私はコウモリ傘を構えて撃ち始める。そして猛が中腰で走り去る。私が向こうの草むらに生える木に向けて「ダダダ、」と言い続けていると、木の枝から鳥が飛び立った。
「あ、」
鳥に当たる筈もないが銃を撃つのをやめた。鳥が飛んで行く方を眺めていると、猛が叫ぶのが聞こえた。
「ああ、やられた。脚を撃たれた。」
猛が壁の辺りで膝を抱えている。私が彼の方に走り出すと、
「バカ、待て待てっちゃ。」
と言っても聞かない私を見て、猛は銃を構え敵に向かって撃ち始めた。そして私が壁に着くなり彼は口を尖らせて言った。
「ちゃんと援護しっちゃ、撃たれたやん。」
猛は半ズボンから生えた細長い脚を体に引き寄せ、膝の大きなカサブタを私に見せた。
「これどうしたん?」
カサブタの一つや二つは子供の勲章のようなものだが、猛の膝のカサブタはかなり大きかった。彼はそれを薬指で優しく撫でながら静かに言った。
「撃たれた。」
彼はまだ口を尖らせていた。
「ごめんね。援護、途中でやめて。」
私が猛の顔を見ながら言うと、彼はまだ俯いたままで言った。
「良いよ。もう。」
しばらく二人はそのままでいた。草が風にそよぐ音、水が流れる音、通り過ぎる鳥の声、そして二人の息遣いを聞いた。
「帰ろう。」
「うん。」
猛が立ち上がって、私もそれに続いた。
「また明日ね。」
「うん、またね。」
そして二人はそれぞれの家路についた。
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