失踪事件

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失踪事件

 それからもこれまで通りの日々が続き、私達は中学校へと上がる。入学後はクラスが違うこともあり、猛とは数ヶ月会うことがなかった。そして夏休みに入って間もなく、猛を含めた同じクラスの男子数名が失踪する事件が起こった。警察は同じクラスの生徒達に事情を聴いて回り、私の家へもやって来た。 「アキラ君、タケシ君が居なくなったのは知ってるよね。」  体の大きな私服警官に緊張して、私は俯いたままで力無く問いに答えた。 「あ、はい。」 「じゃあ、どうして居なくなったか分かる?」 「いえ、分かりません。」 「そうか。今、どこにいるんだろうねぇ。タケシ君はどこに行ったと思う?」 「え?いや、分かりません。」 「中学生になってから、アキラ君はタケシ君と遊んだ?」 「いいえ、遊んでないです。」 「でも、小学生の時は仲が良かったよね?」  そう訊かれて、突然強い哀しみが込み上がり、私は激しくしゃくりあげながら声を上げて泣きだした。いつまでも涙が止まらなかった。  その時、自分がどうなったのかよく覚えていない。気持ちが落ち着いて気づくと、私は二階の自分の部屋のベッドに横になっていて、辺りは暗くなり、数時間は経っているようだった。一階に下りると、母が優しく微笑んだので小声で尋ねた。 「警察の人は?」 「ああ、もう帰ったよ。あんたは、なんも心配せんで良いんよ。警察の人がちゃんと探してくれるけんね。」 「うん。お父さんは?」 「あと一時間くらいで帰って来るよ。」  私は胸のわだかまりを母にどうにかして欲しくて、話し始めた。 「お母さん、誰にも言わんでね。絶対よ。」 「うん、良いよ。話してんね。」  私と母は食卓の椅子に隣り合わせで腰掛けた。 「なんも言わんで聞いてね。あのね、また、援護、出来んかった。僕が援護しとったら、もしかしたらタケシは帰って来とったかも知れん。でも、もしかしたら僕もおらんくなっとったかも知れん。もう分からん。」  私の目に涙が滲み出てきたのを見て母は言った。 「ああん、良いんよ、もう良いんよ。アキラのせいじゃないから心配しなさんな。」  母は私の頭を引き寄せた。  それから私は事件についてそれ以上誰にも話すことはなかった。しかし、私は警察に嘘をついていた。猛がいなくなる前日、猛は私に会いに来ていたのだ。
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