0人が本棚に入れています
本棚に追加
失踪事件
それからもこれまで通りの日々が続き、私達は中学校へと上がる。入学後はクラスが違うこともあり、猛とは数ヶ月会うことがなかった。そして夏休みに入って間もなく、猛を含めた同じクラスの男子数名が失踪する事件が起こった。警察は同じクラスの生徒達に事情を聴いて回り、私の家へもやって来た。
「アキラ君、タケシ君が居なくなったのは知ってるよね。」
体の大きな私服警官に緊張して、私は俯いたままで力無く問いに答えた。
「あ、はい。」
「じゃあ、どうして居なくなったか分かる?」
「いえ、分かりません。」
「そうか。今、どこにいるんだろうねぇ。タケシ君はどこに行ったと思う?」
「え?いや、分かりません。」
「中学生になってから、アキラ君はタケシ君と遊んだ?」
「いいえ、遊んでないです。」
「でも、小学生の時は仲が良かったよね?」
そう訊かれて、突然強い哀しみが込み上がり、私は激しくしゃくりあげながら声を上げて泣きだした。いつまでも涙が止まらなかった。
その時、自分がどうなったのかよく覚えていない。気持ちが落ち着いて気づくと、私は二階の自分の部屋のベッドに横になっていて、辺りは暗くなり、数時間は経っているようだった。一階に下りると、母が優しく微笑んだので小声で尋ねた。
「警察の人は?」
「ああ、もう帰ったよ。あんたは、なんも心配せんで良いんよ。警察の人がちゃんと探してくれるけんね。」
「うん。お父さんは?」
「あと一時間くらいで帰って来るよ。」
私は胸のわだかまりを母にどうにかして欲しくて、話し始めた。
「お母さん、誰にも言わんでね。絶対よ。」
「うん、良いよ。話してんね。」
私と母は食卓の椅子に隣り合わせで腰掛けた。
「なんも言わんで聞いてね。あのね、また、援護、出来んかった。僕が援護しとったら、もしかしたらタケシは帰って来とったかも知れん。でも、もしかしたら僕もおらんくなっとったかも知れん。もう分からん。」
私の目に涙が滲み出てきたのを見て母は言った。
「ああん、良いんよ、もう良いんよ。アキラのせいじゃないから心配しなさんな。」
母は私の頭を引き寄せた。
それから私は事件についてそれ以上誰にも話すことはなかった。しかし、私は警察に嘘をついていた。猛がいなくなる前日、猛は私に会いに来ていたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!