秘密

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秘密

 夏休みが始まり、早起きをする必要がなくなった私は暑さに耐えながらベッドの上に転がっていた。午前十一時を過ぎた頃にチャイムが鳴ったが、母は丁度買い物に出かけていて家には私一人だったので、私は急いでジャージを穿いて玄関まで下りた。 「はーい。」  見ると玄関の網戸の向こうに猛が立っていた。 「おお、タケシ!久しぶりやん。」 「よう、アキラ。」  少々元気がないように感じたが、久しぶりで恥ずかしがっているのだとも思えた。 「どうしたん、中、入り。」 「あ、いや、そこの公園にでも行かん?」  猛が何か話したい事があるようなので、私は言う通りにカラフルなビーチサンダルを履いて玄関を出た。 「背が伸びたんやない?」  猛は長身で華奢。更に色白に黒縁眼鏡ということもあって、弱々しい印象を与える子だった。 「もう伸びんでもいいのに。俺、生まれ変わったらアキラになるけ、アキラはキヨコちゃんになりぃ。で、大人になったら一緒に住も。」  猛の顔がほころんだ。 「なんそれ、結婚するっちゅうことやないん。」  私はちょっと嫌そうな顔を見せて笑いながら続けた。 「タケシもキヨコちゃん好きなん?」  猛は少し真顔になって私の顔を見た。 「は?アキラもキヨちゃんが好きなん?げー、敵同士やん。」  猛が仰け反る。 「なあん、三人で住んだらいいやん。」  私がそう言うなり、猛は吐く真似をする。 「うえーっ!気持ち悪。」 「なん言よん、さっき俺と結婚するっち言いよったくせ。」 「誰がお前と結婚するか。俺はキヨちゃんと結婚するんちゃ。」  猛がそう言って大声で笑いだしたので、私もつられて大声で笑った。笑いが一息つくと、猛は微笑んで言う。 「またアキラと一緒のクラスやったら良かったのに。」 「そうやね。」
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