1.可愛い少年

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『そんな昔の話、かえって笑い話になって盛り上がるんじゃない? その時のお詫びのつもりで仕事頼んだらいいじゃない』 「そっか。じゃあ呼んでみようかな」 結論が出たので、母との対話を終わりにして私は仏壇の前から立ち上がった。その後はお風呂に入って着替えて、食事がまだなら買って来たものを何か食べて、後はテレビをつけてしばらく携帯をいじって寝る。でもその日は、寝る前に本棚の一番下の隅に入れたまま10年以上放置していた中学校の卒業アルバムを開いてみた。植原と同じクラスだったのは確か中学1年生の時で、3年生の時のクラスはわからなかったから1組から順番に見ていった。 「うわっ、子供」 当時はもうそれなりに大人の気でいたけれど、30歳になってしまった私の目に映る卒業生達はまだ幼い子供にしか見えなかった。植原は出席番号が早いから写真はクラスの最初の方にあるはずだ。1組、2組、3組・・・ 「あ、いた」 3組の3番目に植原の名前があった。その顔をじっと見詰めていたら、当時は全く思いもしなかった感想が浮かんできて独り呟いてしまった。 「可愛い・・・」 植原敬(うえはらけい)。噛みしめるように唇を強く閉じて、大きな目で真っ直ぐ前を見ているその顔は、ちょっとびっくりするくらい可愛かった。幼い可愛さだけではなく、造形的な話、つまり目を見張る程の美少年という意味だ。 「写真写りがいいのかな」 それともちゃんと見ていなかったのかもしれない。そう思いながらなんとなくアルバムをめくっていくと5組に自分の顔を見つけた。メガネを掛けていて、眉も唇も真っ直ぐだ。 「ちょっとくらい笑えばいいのに」 生意気そうなその顔は、それでも少女の顔ではあった。少女は少女であるというだけで、まあそれなりに可愛い。よせばいいのに横を向いて鏡に映った30女の顔を見てしまった私は、ため息をついてアルバムを閉じた。
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