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「は?」
今度は私が固まってしまうと、彼はお姉さんの話をしてくれた。彼女はヤンキーではなくごく普通の女子高生で、ごく普通の男子高校生と付き合っていたけれど避妊に失敗して高校を中退してシングルマザーになったという。
「姪は可愛いし今は皆幸せだけど、全員傷ついた。姉はもちろん、父も母も、俺もね」
そう言われてしまうと返す言葉がなく黙っていると彼は続けた。それは彼が中学3年生の時で、近所の高校に進学すると噂が流れて嫌な思いをするのではないかと心配した両親は、少し離れた場所にある園芸科のある高校に進学することを勧めたという。そこなら志望校を変更する理由が不自然ではなく、担任教師に姉の話をしなくてもすむからだ。
「でもそれには偏差値5は上げなきゃならなくて、先生に相談したらおまえは基礎が出来てないから一年生の教科書から復讐しろって言われてさ。それを探してたら親に隠して溜め込んでいたテストが出てきて、その中に佐々木さんが直してくれた小テストもあったんだ」
「私が直したやつだってよくわかったわね」
「わかるよ。佐々木さんは、俺のテスト受け取ると先生が答え言う前に綺麗な字で解説つきで正しい答え書いてくれてたから。そんな奴他にいない。1年生の時にはムカついてちゃんと見てなかったけど改めて見たら本当に丁寧でわかりやすくて、それ使って勉強し直したんだ」
でもそれだけでは当然足りない。先生に質問しに行くのは面倒だったので、受験勉強していてわからないことがあると、彼は友人の中で1番成績の良かった坂口くんに聞きに行ったという。そして彼がいた5組には私もいた。
「佐々木さん席近くてさ、わざと大声でわかんないって話してるとイライラした顔で寄ってきて、坂口よりわかりやすく教えてくれたよ」
「へえ・・・」
前にその話を聞いた時に卒業アルバムで坂口って人を探してみたけれど、彼のことは全く記憶になかった。植原くんも3年生の時には1年生の頃より背も伸びてカッコよかっただろうに、やっぱり1年生の時の怖かった目以外何も思い出せない。私は一体何を見ていたのだろう。
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