3.逞しくて可愛い男

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「お陰でその高校に入れた。佐々木さんの高校よりずっと偏差値低いけど、俺にとっては難関校だった高校にね」 「いや私は何も・・・頑張ったんだね、植原くん」 最初に感謝していると言われた時には半信半疑だったけれど、詳しい事情を聞いて納得出来た。それと同時に、もしかしたら中学の時、植原くんは私を好きだったのかもしれないという淡い期待も消えた。でも今更引けない。改めて覚悟して、私は植原くんに迫った。 「あなたが色々大変な思いをして、童貞なんてとっとと捨てればいいと乱暴に女を扱う男とは対極な生き方を貫いてきたことはよくわかりました。でも先程申し上げた通り、私達はもう30です。流石にもう解禁してよろしいのではないでしょうか。ご安心下さい。私には傷つける家族はいないし、私は極めて傷つき難い女です」 「はあ。でも昇格したばかりで万が一妊娠なんてしちゃったら・・・」 「マタハラになるので、それで降格ってことはないです。まあでもこの先の出世は難しくなるでしょうが、そんなのどうでもいいです。辞める理由がないしノルマ掛けられるとつい人より頑張ってきたけど、別にどうしても続けたい仕事でもないし」 「そう・・・なの?」 「言ったでしょう? 私には今心配することが何もないの。でもそれってちょっと寂しくて・・・あなたが心配の種になってくれるなら嬉しいんだけど、ダメですか?」 抱きついた手を伸ばして頭を引き寄せ、もう一度彼に口づけた後、はっとして尋ねた。 「キスも初めてだった?」 「それは流石に・・・軽く付き合ったことはあるよ」 「えっ何人? 何処までした?」 「あんまり覚えてないけど・・・」 「あああ、いい、いいです、やっぱり聞かないでおきます」 指を折り始めた彼の手を両手で包んで止めると、植原くんはクスリと笑ってその私の手の甲にキスしてくれた。
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