2.腕の良い職人

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2.腕の良い職人

そしていつものように慌ただしい1週間が過ぎて約束の土曜日がやって来た。オシャレ過ぎず、でもちょっと綺麗に見える服を着て、窓から見えそうな場所を掃除しようとした私は、改めて朝日に照らされた庭を見て愕然とした。花壇は見たことはあるけれど名前は知らない雑草で覆われ、それに負けまいと伸びてみたものの力尽きた枝がその上でカサカサと風に揺られている。私は慌てて瀕死の庭に駆け下りて雑草を抜き始めたが、無駄に広い庭を占拠した奴等は手強くキリがない。あっという間に時間は過ぎ、家の前で車が停まった気配に気付いてゴミ袋を抱えて掃き出し窓から家の中に駆け戻った瞬間にインターホンが鳴った。 『お早うございます。植原造園です』 「あ、はい、少々お待ち下さい」 急いで手を洗って玄関を開けると、紺色の作業着に身を包んだ背の高い男性が立っていた。それが成長した植原敬なのか私が判断する前に、彼は言った。 「佐々木唯(ささき ゆい)さんですよね。お久しぶりです。中学校で一緒だった植原敬です」 来た。これが、15年経ったあの可愛い少年の現在の姿。思わずじっと見詰めてしまってから口をついて出たのは親戚のおばさんみたいな言葉だった。 「ああどうも、お久し振りです。植原くん・・・大きくなったね」 中学1年生の時には見下ろしていた顔が、かなり見上げた場所にある。私の身長は167センチで女性にしては高めだから、180センチ前後はありそうだ。それに太ってはいないが、ガッシリとした男らしい体型になっている。 「佐々木さんは変わらないですね」 彼にそう言われて、コンタクトにするのを忘れてメガネを掛けたままだったことに気付いた。久しぶりに会う同級生だから少しは綺麗になったと思われたかったけれど、もう遅い。 「庭は奥ですか?」 「ええ。こちらからどうぞ」 家の脇を通って案内しながら、私は言い訳を伝えた。 「朝は忙しくて帰ってくるともう暗くなってるから酷いことになるまで気付かなくて・・・」
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