■第一話 金魚倶楽部とカプチーノ

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「あ、源蔵(げんぞう)さん、ありがとうございます」 「いいってことよ。どうせ家で食いきれねぇし」 「では、ありがたくいただきます。ごちそうさまです」 「おう。コーヒー一杯。いつものな」 「かしこまりました」 「だから、その言い方。あんまり丁寧だと、むず痒いんだっつってんだろ」 「ははは」  こんなふうに、渉のことを気にかけ、おすそ分けをしてくれる人がいるからだ。  渉がいらっしゃいませ、と言いきる前に威勢よく店に入ってきたのは、漁師をしている源蔵さんという五十代半ばの男性だ。  そろそろ初鰹の頃だな、などと思っていると、まるで以心伝心でもしているかのようにベストなタイミングでおすそ分けをくれる。  この通り口は少々乱暴だが、とても気のいい人だ。  前に台風が直撃した際、店を一人で切り盛りしている渉を心配して豪雨の中を駆けつけてくれた。  一人暮らしのご年配の人たちの家も一軒一軒回って「大丈夫か」と声掛けもしていたくらいの、熱い海の男である。
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