■第一話 金魚倶楽部とカプチーノ

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 元樹君と一緒に帰ってきたのは、その点でも都合がよかった。  元樹君がそばにいてくれればというのは、世話焼きな性分だからというだけではなく、そういう意味でもある。  噂の一人歩き防止策。  若い主婦層からの評判もいい渉が自らの口でそう言うのだから、迂闊なことは慎むべきと、お母さん方に暗黙の了解を得てもらったのだ。  やがてその主婦たちも子供の手を引き帰っていくと、店内は一気に静かになった。  夕飯前のちょっとしたブレイクタイムだ。  子育てのことは渉にはまだよくわからないけれど、ご飯にお風呂に、小さい子には寝かしつけなど、まだまだお母さんは休めない。  つかの間の休息時間になれていたらいいんだけど、と思いつつ、カップやグラスを片づける。  店内に残るのは、先ほど入ってきた女性客が一人。  ゆっくりとコーヒーを楽しんでいるようで、手にはリネン生地のブックカバーをかけた文庫本を持っている。  ときおりパラリとページをめくる。その間に、少しずつカプチーノが減っていく。  洗い物が終わると、店内はさらに静かになった。
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