■第一話 金魚倶楽部とカプチーノ

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「そうかもしれませんね。文香さんがそう思うのなら、きっとそうなんだと僕も思います」 「ですよね。もともと叶わない恋だったんです。深手を負う前に失恋してよかった」  何かを言い聞かせるような彼女の口調は、聞いていて胸が痛かった。  でも、大人になっていくにつれて臆病になる――その一言に共感する部分も多い。  年齢を重ねていくと、望むと望まざると、変に守りに入ってしまって、傷つくことを恐れてしまうのだ。  大学を卒業して三年ということは、文香さんたちは二十五歳くらいだろうか。渉の歳でも傷つくのは怖い。片想いをしていたのなら、なおさらだろう。 「たまたま友達からこのお店の話を聞いて、有休消化と傷心旅行を兼ねて二泊三日でここに来て。ぼんやりと海を眺めながら恋し浜を散歩していたら、ふと、そんなことを思うようになりました。打算的かもしれないけど、これでよかったんですよ」 「はい」 「でも店長さん、本当に話しか聞いてくれませんよね」  すると文香さんがテーブルから少し身を乗り出して言った。 「……え?」 「なんかこう、もっと慰めたりアドバイスをしたりするのかなって」
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